同人TEXT
傾向:倦怠、陰鬱、同性愛
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no title
わたしは閉じている。薄い網でできた五つの袋に詰められ麻の紐で口を固く閉じられて一つの胴と四肢に埋められている。かあさまは首を繋ぐのを忘れてしまわれたらしい。わたしの頭は机の下に転がってしまって、鼻の先に爪先立ちになった体に踏んづけられてしまわないかが心配なあまり、わたしは身動きが取れずにいる。なにしろどこをどんなふうにすればどんなふうに体が動くのかわからないのだ。縁側に猫がやってきて、わたしの顔をじっとみている。障子の向こうから誰かの頭がごろりと転がって、その陰から新しい猫が顔をだした。転がった頭は顎で這い髪で伝ってわたしの体に這い上り、首に収まってしまった。
「この御身、頂いていくわね」
誰かの頭はわたしの体で歩いていった。仕方がないのでわたしは畳を転がって隣室に行き、昼寝をしていた弟の首にかみついた。千切れた首の断片はとても座りがわるいけれど、それも仕方がない。猫を抱き上げ襖を跨ぐと、かさかさかさかさ音がする。振り向くと、ちょうど弟の目玉が転がり落ちたところだ。つまみ上げた目玉は片方の猫に浚われた。障子の向こうに引っ込んだ黒いシルエットが、肉の汁の音をたてた。



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no title
町井の後頭部をぶん殴って鉄砲のように振り向き、廣瀬の肩を、爪が食い込むほど強く掴む。右手から鞄を毟り取って睨みつけ、わざと大きな足音を立てて河川敷の砂利を踏みしめる。「コノヤロウ!!!!」という怒声を聞いて駆け出す。足は遅くない。多分追いつかれない。なんで逃げなくちゃならないのか。鞄を盗んで駆け出した廣瀬達が悪いのだ。私に何か非があるとすれば、それは無口なことだけだ。目つきが悪いのは生まれつきで、そんなことは私の母親に言ってほしい。母の釣り目を、私は色濃く受け継いでいる。醜い濁声はいくらかぼやけて追ってくる。私は走る速度をあげた。夢中で走る。全速力で土手を登り、コンクリート道路を駆ける。世界は理不尽だ。向かい風が嘲っている気がした。

「遅い」
「…………」
ドアを開けるなり太い声で叱られて、むっつりと黙り込む。だって仕方がない。虐められてて遅くなりましたなんて言えない。母は学校に殴りこみに行きかねない。それに、虐められているなんて言いたくもなかった。そんなのかっこ悪い。
「手を洗ってきなさい。ご飯、取ってあるからね」
小さく頷いて洗面所のドアをくぐる。先回りして命令されると、途端にやる気が萎えるのは、いったいどうしてなんだろう。
父親はまだ帰っていないようだ。母はまた一人で夕食を食べたのだろう。孤独感が母の機嫌を損なわせているのだ。私は今日も目のつり上がった母を前に、味気のない食事を咀嚼しなければならないのだろう。父は何をやってるんだ、と思ってしまう私は、薄情だろうか。

翌日の授業は全てサボった。朝起きた時点で、私の体は鉛のように重かった。制服を着て、いつもと同じ時間に家を出た。私は学校には向かわず、繁華街への道を進んだ。

宮田の部屋の窓には網戸がかかっていた。在宅だ。私は安心して外付けの非常階段を登る。エレベーターのあるエントランスは鍵がないと入れない。仕方がないので、私は裏口から入って八階分の階段を登ることにしている。
宮田は引きこもりの大学生だ。週に二度は大学に通っているらしいが、大抵家にいる。2ヶ月前まで自宅の斜向かいにある平屋立てのアパートに住んでいた。
何がきっかけで知り合ったのかは忘れた。多分回覧板だと思う。私は宮田が斜向かいに住んでいた時から宮田の家に入り浸っていて、宮田が駅向こうの高層マンションに移り住んでからもそれは変わらない。気まぐれに訪れては遅くまで入り浸る。宮田は特別咎めるでもなく、ただパソコンに向かって何かの作業をしていた。その静けさと、人の気配が心地よく感じられて、私は足繁く宮田の部屋に通う。
非常階段を伝い、ベランダから顔を出すと、宮田はいつものようにパソコンの前にすわっていた。



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no title
「あなたは取り替えられちゃったのよ」
と祥子は言った。
「1988年の冬に東京の病院で、あなたは本当のあなたと交換されたのよ。つまりあなたの家族は本当のあなたの家族なのであって「あなた」の家族じゃないんだわ。」
私は確信を顔中に漲らせた祥子を残し、とぼとぼと屋上を後にした。祥子のことは好きだ。でも時々まるでついていけない。
祥子は奇人だ。同級生の間では、祥子がなにかへまをしたときに何事もなかったかのように流すのが暗黙のルールになっている。例えば昼食にイナゴの佃煮の詰まったイチゴジャムの瓶を三つ持ってきたとき。社会の授業中に宇宙人が来たといって馬鹿でかい声で避難を呼びかけたとき。早朝に登校し「侵略者がいる!」と喚いて三階と六階の廊下を消化薬まみれにしたとき、クラスメートたちは速やかに祥子の奇行を無視した。そんな不名誉なルールが守られていることを、祥子はまったく気にかけない。もしかしたら気づいてすらいないのかもしれない。それでも、祥子は生徒たちの迫害を受けることはなかった。祥子の奇行はいつでも良心的な範囲に収まっていたし、基本的に気のいい性分だったからだ。そして、何よりも祥子を周囲に受け入れさせたのは、ある得難い特技だった。祥子には好き嫌いがなかった。食べ物も飲み物も、人も動物もなにもかも、祥子は平等に接した。セクハラで有名な教師の教科係に進んで立候補し、トイレに出現したゴキブリを箒で退治し、不潔症の男の子の手を取ってフォークダンスを踊った。祥子は学校生活におけるブラックボックスだった
。都合の悪いことは全て祥子のブラックボックスにぶち込んだ。祥子は他の大多数の生徒たちにとって、平和で過ごしやすい毎日を送るための体のいい犠牲だったのだ。



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no title
世界は暗くて冷たくて、遠い。狭くて苦しくて、息が詰まる。
私が触れられるのは、あなただけ。でもあなたを支えられるのは、私だけではない。氷の中に閉じ込められて、どれだけ時間が経っただろう。
「毎月、必ずくるよ」
暗い洞の中であんなに明るく心を照らした言葉は、固い岩に溶けて消えた。氷の中に閉じ込められたときに、私の生は終わったのだ。あの艶やかな長い髪が、私の前でふわりと舞うことはもうない。樹律の髪を目を手足を唇を私は目の前に見ているような鮮明さで思い出すことができる。愛しさは山を超え野を越えて、私を見たこともない広々とした土地に連れて行く。



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no title
草村に集る蚊柱を避けてバランスを崩し、木陰に突っ込んだ。衰弱した体は、倒れ込んだ地面から再び起き上がるだけの力を捻り出せず、地についたか細い肘は、くたりと崩れ落ちた。



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0130
タイルを伝って絶えず流れ落ちるシャワーに私が映っている。暗いモノトーンのそれは歪み、流れ落ちる水に逆らってただそこにある。虚ろな目は、私がまばたきをしても微動だにせず、目を閉じている間も影はまったく別の命令系統にしたがって、目を見開いているような気がする。映った自分の姿に怯え、首に手を伸ばす。タイルは波打ち、私の両手を受け入れる。

「わたしをあやめなさい」

タイルの中の私が静かに語りかける。伸ばした手が、確かな感触を掴む。
「わたしが居なければ、あなたもいきられない」
ゆっくりとしめあげる。
「わたしがしねば、あなたはこわれる」


タイルに頭をすり寄せて、座り込む肩をシャワーが暖かく打つ。タイルの向こうでは、わたしが同じように身を寄せている。浅く息を吐いて力をぬくわたしを見るタイルの向こうのわたしは、少し哀れむような目をしている。



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1124
重にもかかった鍵をひとつひとつ外す。錆び付いた鎖はカラリと音を立てて床に転げ落ちる。きしむドアの向こうには、白い壁の部屋がある。中には一匹の壊れた雄が居る。
仄かな陽光に照らされて、稲本は力なくベッドに横たわっていた。薄く開いた唇から唾液が流れ出ている。掬い取って唇に塗り込めると、てかてかと艶めいた。
シャツを剥いで覆い被さると、抵抗なく身を任せる。そこに稲本の意志はない。数年前に壊れてしまった彼の精神に、何がしかの意識を紡ぎ出す力はない。太股に爪を立て、のけぞった喉元に口付ける。肉をねじ込んだ肛門から血液が溢れても、稲本はただ唾液にまみれた口を開けて意味のないうめき声をあげるだけだ。どんな暴力を振るっても、稲本はただそうして赤子のように喘ぐしかない。何年も狭い部屋の中に囲われ、ろくに食事も採らない稲本の体はやせ細り、抵抗する力はとうに失われた。少し力を入れるだけで折れる腕を優しく握り締めて、痩けた頬を吸う。艶やかだった頬。少し厚めだった腹の肉。弾力のある肌。思い出す健康な稲本の姿を痩せた身に重ね、体を揺さぶる。静かな情事は時間の感覚を薄れさせる。永遠のようにゆったりとした時の流れは、いつまでもそこで2人を包んでいる。



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1324
それはどこからともなくやってきて僕を翻弄し、17歳のガン細胞の如き素早さで体を蝕んでいく。
「あと1ヶ月かな」
どうして、と問い詰める言葉を飲み込み続けて、最近ではなんだか慣れてきてしまったその悲しみ。身の裂けるような慟哭なんてない。僕はただ淡々と彼の余命を告げられて、いつものブラックジョークだと思い込んで少し笑っただけ。ジョークなんかじゃないと気づいたのは、何度も繰り返される彼自らの余命告白の六度目だった。病室を出て、車に乗って、家の手前にある信号機での長い停車のなかで、僕はふいに気付いたのだった。
あとになって、看護婦さんに聞いた話では、彼は殆ど毎日のように静かに涙を零し、「ひろや…」と呟いたという。ひろやは僕の名前だ。
僕は愚か者だ。
あんなに直接的な救助信号を見逃していた。直接的すぎてわからなかった。いつもと同じ、すこし卑屈な笑みに隠されたかなしみを見逃した。妹から奪ったこの人を、誰よりも近くで、独り占めにしてきたのに。僕しかいなかったのに。
僕を選んでしまったことで、彼の世界は小さく閉じた。全てをなげうって僕と共にいることを選んだ彼に僕がしてあげたことは少ない。毎週土曜に病室に顔を出し、頬を撫で、薄緑色のカーテンのなかで彼の陰茎にささやかなキスをした。
病院代を含む生活費を負担した。少しだけ残っていた車のローンを返済した。欲しがるものは全てあげた。それだけ。
彼は全てをなげうったけれど、僕には妻と子供がいる。両親も健在だ。彼がすべてを託してくれたとき、僕はなに一つ捨てられなかった。彼は「それでもいい」といった。その言葉に甘え、なにも手放さなかった僕。
僕のために彼はなにもかもを失って、身を削って、心を削って、今何一つ無くそうとしている。命の灯火さえも。僕という矮小で臆病な人間のために全てを投げ出してしまった彼は間違っている。あんなに輝いていたのに。僕はすべてを吸い上げてしまった。彼から吸い上げてできあがった僕の家庭。現状。そこそこの幸福。彼の存在と僕のそこそこの幸せ、本当に価値があるのは、いったいどっちなんだろう。

それでも僕は彼の手を離さない。毎週土曜日のベッドの上で、僕は彼の中に熱い僕のかけらを注ぎ込む。握り返した苦しげな手のひらが、僕をそこそこの幸福の中で生かし続ける。失い続ける彼から全てを搾り取ってしまいたい。全てをこの手に。むしりとって、閉じ込めて、孤独の中で、僕だけを求めて。
「ひろや………」
体の下で喘ぐ彼の顔を脳裏に刻みつける。彼を傷つけるのは僕だ。彼から奪い取るのは僕だ。全ての元凶の僕を愛して死ねばいい。僕だけを見つめて死ねばいい。誰にも渡さない。幸福なんてやらない。苦しめて、喘がして。
僕が殺すんだ。この人を。

「僕のせいで死んで、充也。かわいいね………」


愛してるよ、充也。



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1926
君はいつも僕をみている。ピンク色のその眼で、ただ僕を見つめている。どうして、そんな悲しそうな眼をするんだろう。君は誰なんだ、と僕は思う。心の声を理解したみたいに、君は背を向ける。すう、とどこかに消えてしまう。僕の目の前には、間抜けな顔をした僕の妹だけが残される。妹は
「何やってんの?」
と呟き、マスカラで隈取りされたタレ眼で僕をみる。妹は、彼女をどこに隠しているんだろう。妹の顔に浮かんでいたさっきまでの神々しい静かな雰囲気は消え失せ、擦れた風俗嬢のような表情が僕を見下している。間違っている、と僕は思う。

ピンク色の眼をした彼女を犯しながら、僕はいつも考える。彼女はいったいなんなのだろう。神憑りのようなものなのか、それとも彼女は妹の一部なのか。結局答えはでないまま、僕は静かに射精する。悲しそうなピンク色の目は、僕を移している。瞳の中の僕の顔は、彼女に負けないくらい、悲しげに歪んでいる。中身がたとえ普段の妹とはまるでかけ離れた性質のものだとしても、僕がこうして犯すのは紛れもなく血の繋がった妹の肉体だ。その疑問を胸の中で反芻して、僕は行為を終える。妹の体を洗い流し、衣服を整えるまで、彼女はその肉体に留まっていてくれる。哀れむような二つの眼は、やがてまたいつものように、僕を移したまますうっと消えていく。そしてまた妹はあの蔑むような目で僕をみるのだろう。本物の彼女にあいたい。妹といういれものを失えば、彼女は別の形で姿を表すのだろうか。僕は妹の首に手をかけ、力を込めた。真っ赤に膨れて青ざめる妹は、出来の悪い人形のようだ。階下で声がする。母親が帰宅したのだろう。僕を呼んでいる。僕は妹から手を離し、階下に降りた。
「コレ、温めて」
言われるままに僕は電子レンジに冷凍パックを放り込む。ピンク色の眼はまた僕を哀れむだろうか。そんなことを思いながら、僕はボタンを押した。



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1442
やりたくないことをやる、というのは言うなれば人間にとっての宿命のようなもので、私は決して長いとはいえないささやかな一生の中で、ただひたすらに忍耐と辛抱を身に付けていく。最大多数の正しさを振りかざして街をゆく雑踏の中に、私は含まれている。善良な人々が諦めてしまった問題の解答を、探し出せるものは少ない。答えのない問いは、物事として半分しか完成されていない。賢い美代子や聡は、早々ににその問題を投げた。私はまだその問いに、心の一部を捕らわれたままだった。答えのない問いを追いかけ続けた奏太は、去年の冬にレールの上で挽き肉になった。予定の時刻に遅れた人々に散々に扱き下ろされた。賢くも愚かにもなりきれない私は、どこまでも宙ぶらりんのままで人々の波に混じっている。泥でできた橋をひたひたと歩き続ける私が、終着点にたどり着くことはない。道のりは視認できないほどに遠く、私の寿命は泥道の途中で尽きる。もしくは、足を滑らせて沼に沈む。きっと、こうして踏んでいる泥道すら、どこにも通じてはいないのだ。長い長い道の両端は、ぷっつりと途切れて終わっている。端と端を繋ぐ道のりは気の遠くなるほどに長すぎて
、どん詰まりに突き当たるまで歩いた頃には、私は反対側の端が同じようにどこにも通じていないということを忘れている。そうして私はその不安定な道の上で、のろまなピストン運動のように端と端をいったりきたりする。

世界は閉じている。閉じた世界で少しでも快適に過ごすために、私の存在は雁字搦めでちっぽけだ。私はどこかで一度壊れてしまったに違いない。私は私をまもる為に、自分に枷を填めたのだ。



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